第一次運動野は空間ベクトルの外積を用いて到達運動ダイナミクスを計算する

The motor cortex computes reaching dynamics through spatial vector cross products

  • 田中 宏和 (北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科)
  • Terrence J. Sejnowski (ソーク研究所)
  • Hirokazu Tanaka (School of Information Science, JAIST)
  • Terrence J. Sejnowski (The Salk Institute for Biological Studies)

第一次運動野(M1)は身体との体部位対応を持ち、錐体路繊維を通して脊髄中の運動ニューロンに投射するが、どのようにして身体運動を制御するかについては完全に理解されていない。ダイナミクスの立場ではM1は身体座標系における筋張力や関節トルクを制御すると主張するが、キネマティクスの立場では外部座標系における運動軌道を表現しているとする。本講演では外部座標系を用いると到達運動を記述する運動方程式が単純になることを示し、開n-リンク系の一般式を導出する。この式は左辺のダイナミカル量である関節トルクと右辺のキネマティカル量である空間運動を直接関係づける式であり、関節角表現を明示的に必要としないため、逆キネマティクス計算や不良設定性問題を回避することができる。M1は空間ベクトル外積を用いて理想軌道を到達運動ダイナミクスへと変換しているという計算理論を提案する。空間ベクトルの外積各項をM1神経細胞の発火頻度と同一視すれば、(1)コサイン・チューニング、(2)最適方位の作業空間依存性、(3) 複数座標系の混在、(4)運動適応後の活動変化、 (5)ポピュレーションベクトルの時空間的性質といった実験結果を説明できる。また、運動適応の基底としてベクトル外積を採用すれば、ヒト心理物理実験で示された肩座標系による粘性外力場の汎化や、外部座標系による視覚運動適応の汎化を再現することができる。ベクトル外積から筋張力の計算も一層のニューラルネットワークで計算できることを示す。これらの結果から、キネマティクスとダイナミクスの立場が相反するものではなく、運動方程式における左辺と右辺を強調しているにすぎないと結論する。



Last-modified: 2012-12-18 (火) 15:56:32