霊長類大脳皮質運動野におけるSPP1遺伝子発現と手の巧緻性との相関

Correlation between SPP1 Expression in the Primate Motor Cortex and Finger Dexterity

  • 山本 竜也 (筑波大学大学院 人間総合科学研究科)
  • 肥後 範行 (産業技術総合研究所 ヒューマンライフテクノロジー研究部門)
  • 大石 高生 (京都大学霊長類研究所 統合脳システム分野)
  • 村山 繁雄 (東京都健康長寿医療センター 高齢者ブレインバンク)
  • 佐藤 明 (理化学研究所 生命情報基盤研究部門)
  • 高島 一郎 (産業技術総合研究所 ヒューマンライフテクノロジー研究部門)
  • 杉山 容子 (筑波大学大学院 人間総合科学研究科)
  • 西村 幸男 (生理学研究所 認知行動発達機構研究部門)
  • 村田 弓 (産業技術総合研究所 ヒューマンライフテクノロジー研究部門)
  • 吉野-斎藤 紀美香 (生理学研究所 認知行動発達機構研究部門)
  • 伊佐 正 (生理学研究所 認知行動発達機構研究部門)
  • 小島 俊男 (浜松医科大学 実験実習機器センター)
  • Tatsuya Yamamoto (Tsukuba University)
  • Noriyuki Higo (AIST)
  • Takao Oishi (Kyoto University)
  • Shigeo Murayama(Tokyo Metropolitan Institute of Gerontology)
  • Akira Sato (RIKEN)
  • Ichiro Takashima (AIST)
  • Yoko Sugiyama (Tsukuba University)
  • Yukio Nishimura (NIPS)
  • Yumi Murata (AIST)
  • Kimika Yoshino-Saito (NIPS)
  • Tadashi Isa (NIPS)
  • Toshio Kojima (Hamamatsu University School of Medicine)

手の巧緻性とはつまみ動作のような指先を使った細かな運動を行う能力のことである。このような運動の制御には一部の霊長類のみが持つ高度に発達した皮質脊髄路(CST)が重要な役割を担うと考えられている。これまでにマカクサルなど手の巧緻性が高い種であるほどCSTの数・大きさ・伝導速度の増大などが見られることが報告されている。しかしこのような手の巧緻性を担うCSTの構造的・生理学的特徴の背景となる分子的特徴については不明である。近年我々はSPP1 (secreted phosphoprotein 1) 遺伝子がマカクサルCSTニューロンで特異的に発現することを報告してきた。本研究ではこの遺伝子の運動野における発現と手の巧緻性との関係を3つの観点(種差・発達・CST損傷後の可塑的変化)から検証した。CSTが主に投射する第一次運動野のV層(M1/V層)におけるSPP1陽性細胞数は手の巧緻性が低い種(ラット・マーモセット・リスザル)に比べて高い種(アカゲザル・フサオマキザル・ヒト)の方が多かった。マカクサル生後発達期のM1/V層におけるSPP1陽性細胞数は年齢が高くなるにつれて対数的に増加し約3歳でプラトーに達した。この年齢は手の巧緻性の生後発達に重要なCST伝達速度の増大が頭打ちする年齢と類似していた。CST損傷後にSPP1陽性細胞が損傷対側腹側運動前野(CST損傷後の機能代償領域)で多く観察された個体であるほど手の巧緻性の回復程度が高かった。本研究成果より手の巧緻性を担うCSTの構造的・生理学的特徴の形成や維持に対してSPP1は重要な役割を担う遺伝子であることが示唆された。



Last-modified: 2012-12-18 (火) 15:56:32