抗GAD抗体陽性小脳失調症患者における可逆的予測制御障害

Reversible deficits in predictive control in a patient with anti-GAD-Ab(+) cerebellar ataxia

  • 筧 慎治 (東京都医学総合研究所)
  • 李 鍾昊
  • 南里和紀 (東京医大八王子医療センター)
  • 三苫 博 (東京医大)
  • 水澤英洋 (東京医科歯科大学)
  • Kakei Shinji (Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science)
  • Lee Jongho
  • Nanri Kazunori (Tokyo Medical University)
  • Mitoma Hiroshi (Tokyo Medical University)
  • Mizusawa Hidehiro (Tokyo Medical and Dental University)

一般に小脳性運動失調症は非可逆的であり、症状を顕著に改善する有効な治療法はない。しかし免疫性小脳疾患ではIVIg療法(イムノグロブリンの点滴静注療法)等の治療により症状が顕著に改善することが知られている。最近我々は、脳内の予測制御器とフィードバック制御器の運動指令を分離し、定量的に評価できる定量的運動指令解析システムを開発した。このシステムでは、被検者に視覚誘導性の予測制御運動を低周波で行わせ、予測制御の運動指令を高周波のフィードバック運動指令と異なる周波数帯域に設定する。その結果2種類の運動指令はフーリエ解析によって容易に分離できる。今回我々は、この計測システムを低力価抗GAD抗体陽性運動失調症患者の治療効果の評価に活用する可能性を検討した。症例は50代女性で15年前より上下肢に小脳性運動失調症状を呈し、MRIで小脳萎縮が確認された。運動失調症状は緩徐な経過で進行性に推移してきているが、2004年以降、年1回程度の頻度でIVIg治療治療を受け、歩行運動および上肢運動の改善を認めてきた。今回、8回目のIVIg治療を行い、自覚症状の改善を認めたがICARSでは有意な改善を確認することは出来なかった。そこでIVIg治療前後の手首運動の病態を定量的運動指令解析システムを用いて比較検討した。その結果、発症後15年以上を経過してもIVIgによる免疫抑制療法で手関節運動に見られた予測制御の障害が可逆的に改善されていることが確認された。従って、低力価の免疫性小脳疾患では小脳障害の少なくとも一部が細胞変性に至らない機能的なレベルに留まっていることが示唆された。



Last-modified: 2012-12-18 (火) 15:56:32