健常者における極低速域歩行の歩行比 Speed related changes in gait ratio from normal to very slow walking speeds
【目的】歩幅を歩行率で除した値は歩行比と呼ばれ、自由歩行において一定であるとされる。歩行比は高速域で急激に変化し走行へ切り替わるが、低速域での検討は少ない。本研究では極低速域における、歩行比の変化を検討した。【対象】同意の得られた若年健常成人21名を対象とした。本研究は倫理審査委員会の承認を得て施行した。【方法】5段階の主観的速度(高速、快適、やや低速、低速、極低速)の平地歩行を実施し、歩幅、歩行率から歩行比を算出し速度との関係について解析した。【結果】各主観的速度における歩行比を比較した(Paired-t test, Bonferroni補正)。低速、極低速の2条件において、他の全ての条件に対して有意差(P<0.01)が認められ、低速、極低速になるに従い歩行比は増大した。一方、その他の3条件間では有意な差を認めなかった。そこで、低速、極低速の2条件を低速域、それ以外の3条件を非低速域とし、各速度域それぞれにおいて、歩行速度と歩行比の直交回帰直線を求め、その交点から歩行比が変化する速度(シフトポイント)を算出した。結果、シフトポイントは56.2m/min となった。また、非低速域では、歩行率と歩幅の相関を認めたが(Spearman順位相関係数、Bonferroni補正、P<0.05))、低速域では有意な相関を認めなかった。【考察】歩行比は低速域において一定性を失った。通常歩行は、重力を利用した振り子運動と捉えることができるが、極低速域ではこうした歩行を規定している基本原理が成り立たなくなる可能性がある。 |