脊髄完全損傷者の麻痺下肢に生じる歩行様筋活動の長期適応変化

Long-term adaptation of the locomotor-like muscle activity during orthotic gait in an individual with spinal cord injury

  • 河島 則天 (国立障害者リハビリテーションセンター研究所)
  • 中澤 公孝 (東京大学大学院総合文化研究科)
  • Noritaka Kawashima (National Rehabilitation Center)
  • Kimitaka Nakazawa (University of Tokyo)

下肢の運動麻痺を持つ脊髄損傷者の場合、自力での歩行は困難だが、下肢装具を装着することで歩行運動が可能となる。興味深いことに、装具歩行中には、脳と麻痺領域の神経連絡が途絶している完全損傷の場合でも、下肢の筋群に歩行周期に同調した筋活動が発現する。この筋活動は、歩行運動に伴う末梢性感覚入力によって脊髄運動ニューロンの活動が喚起された結果として生じるものと考えられるが、単に筋の伸張などの物理的変化によってのみ生じるのではなく、脊髄内の介在ニューロン群で構成される「脊髄歩行中枢」の活動を反映するものと考えられている。 この「歩行様筋活動(locomotor-like muscle activity)」の発現は、歩行に関連した適切な感覚情報が与えられれば、脳との神経連絡が絶たれていても脊髄歩行中枢の活動が惹起できる可能性を示唆するものである。本報告では、受傷後11年にわたって装具歩行を継続している脊髄完全損傷者のフォローアップ計測の結果を示し、上記の歩行様筋活動の長期的変化の観察から、装具歩行の繰り返しによる求心性感覚情報が脊髄歩行中枢の可塑的変化(use-dependent plasticity)を生ずるのか否かを議論してみたい。



Last-modified: 2012-12-18 (火) 15:56:32