動画視聴時の情報解析機構–時間・空間反転刺激を用いた研究–

Information processing mechanisms in viewing video clips – application of stimuli with time or space reversals --

  • 「須田 悠紀 (順天堂大学大学院医学研究科神経生理学)」
  • 「北澤 茂 (大阪大学生命機能研究科ダイナミックブレインネットワーク研究室)」
  • 「Suda Yuki (Department of Neurophysiology, Juntendo University Graduate School of Medicine)」
  • 「Kitazawa Shigeru (Dynamic Brain Network Laboratory, Graduate School of Frontier Biosciences, Osaka University)」

健常者が動画を見る時、視線を向ける場所や移動させるタイミングは驚くほど一致している(Nakano et al. 2010)。健常者は動画の情報を処理して視線を制御する神経機構を共有しているのだろう。本研究では、動画の視覚情報処理に要する時間と処理機構の一端を明らかにすることを目的として、動画、時間逆転再生動画、上下反転動画を見る際の視線の時空間パターンを27名の被験者で計測し比較した。 まず、情報処理時間を推定するために、標準刺激と時間逆転刺激に対する視線時系列を比較した。一方の時系列を時間逆転した時系列ともう一方の時系列間の距離は、680 msずらした時に最小となった。この時間差は、視覚情報を処理して視線を向けるべき場所を決定するのに要する時間と、単純な視覚刺激からサッカード開始までの潜時の和の2倍の推定値となる。サッカードの潜時を170 msと仮定して、視覚情報処理に要する時間は170 msと推定された。 次いで、動画の明るさ、コントラスト、色、動きなどの低次視覚特徴量に基づいて計算した「重要度」の時空間パターン(n = 20)と、実際の視線の時空間パターン(n=27)を比較したところ、両者は全く重なりのない2群に分離した。つまり、ヒトの脳は低次視覚特徴量だけで視線制御を行っているのではない。情報処理時間は登場人物1名あたり約100 msずつ増加し、上下反転で約70 ms増加した。健常者の動画情報解析機構は、通常の上下関係を仮定した人物の抽出と重要度の比較を一人当たり100msという短時間で行っていることが示唆された。



Last-modified: 2012-12-18 (火) 15:56:32