球技選手の持つ優れた指先知覚特性 Ball sports players have greater tactile sensitivity of fingertips.
他部位の触覚に比べ、優れている手の触覚情報は(Johansson et al., 1979)、スポーツ場面の投球やシュート動作における、ボールの軌道調整能力に大きく影響していることが現場では経験的に知られている。しかし、現在のところスポーツ選手の持つ指先触覚能力を調査した知見は得られていない。そこで、球技経験者と一般人の指先知覚特性を定量化及び比較することで、経験的知見の科学的立証を目指すとともに、触知覚学習の可塑性の有無について検討する。本研究では球技経験者(野球、バスケットボール)と一般人を被験者とし、4種類の右手2指の組み合わせ(示指-拇指、中指-拇指、環指-拇指、小指-拇指)のそれぞれに対して同時に点字様刺激を与え、通常下と外乱下の2条件でその刺激量の差を判断する認知課題を行った。さらに、それらの課題は手を広げた姿勢と実際のスポーツ場面を想定したボールをつかむ姿勢の2種類の姿勢で行った。まず、手を広げた姿勢について、一般人では、全ての組み合わせにおいて、外乱下で有意な刺激認知能力の低下が見られたが(p<0.01)、球技経験者では、外乱下でも示指-拇指の組み合わせにおいてのみ刺激認知能力の低下は見られなかった(p<0.01)。一方で、ボールをつかむ姿勢についても同様の結果が示された。以上のことから、球技経験者の示指-拇指の指先知覚は、手を広げた姿勢において、一般人よりも優れていることが明らかになった。さらに、その優れた触覚情報は、手の姿勢を変化させても維持されることから、その触覚能力がパフォーマンスに影響する可能性が示唆された。 |