両手協調運動における能動的注意の影響 Effect of top-down attention during bimanual movements
新しい身体動作を獲得する際に,どこに注意を向けて運動を行うかはパフォーマンス向上に重要な要素とされるが(Wolf et al. 2010),そのメカニズムには不明な点が多い.本研究では,比較的単純な協調運動である両手運動中に能動的注意を特定の身体位置に向けることでその他の身体部位の運動出力がどのように影響を受けるかを評価し,認知情報処理と運動制御の関わりを検証した. 被験者(右利き健常成人8名)はモニタ上の手先カーソルを見ながら,両手リーチング運動(振幅 7cm)を行い,ランダムな試行において右手(または左手)のみ大きな振幅が要求される.この時の右手(または左手)の運動修正に伴って変化する左手(または右手)振幅を定量的に評価し,カップリング(協調性)の指標とした.注視点はモニタ中央とし,運動中の能動的注意は,モニタ上の視覚刺激に基づいて右/左/中央のいずれかに向けた.課題は,手先カーソルのみフィードバックする対照条件と,左右の手で対象物を運ぶような作業要素を含んだ視覚フィードバックを与えた協調条件とした. 対照条件でのカップリングは注意を向ける空間に依存しなかったが,協調条件では注意を向けた空間に応じてカップリングの強さが変化した.特に,注意を右手側の空間に傾けると,中央あるいは左手側に注意を向けた条件よりも有意にカップリングが弱くなった(p<0.05). 今回の実験で,能動的注意に関する認知情報処理と身体の協調性が相互に関係する可能性が示唆された.今後は,認知機能を担う脳領野等に対して経頭蓋磁気刺激を加えること等により,その脳内情報処理過程を明らかとしていく. |