視覚運動変換学習によって発火特性が変化するM1/PMdcの神経細胞は何を符号化しているのか? What information is encoded by a neuron of M1/PMdc that changes its firing property during a visuomotor adaptation?
大脳皮質にはHebb型の可塑性シナプスやスパイクタイミングに依存した可塑性シナプスが存在することが知られている。このような可塑性シナプスが機能的にどのような役割を演じているのだろうか。本研究では一次運動野と運動前野背側尾側部に着目し、視覚運動変換学習によってこれらの領域の神経細胞の活動特性が変化するかどうかを検討した。具体的には、水平面上に動く受動的マニピュランダムを手で操作(手首は固定)してコンピュータ画面上のカーソルを視標内に移動するコントロール課題と、カーソルを45度回転変換かけた位置に提示した状態で行う学習課題をサルに課し、コントロール課題と学習課題完了時で細胞活動特性を比較した。細胞活動を特徴付ける変数として肩と肘の関節トルクと関節角速度を想定し、これら4つの変数の重み付け線形和によって細胞活動を近似することにより、4次元空間内のベクトルとして細胞活動の特性を抽出した。関節トルクに関する細胞活動特性は学習課題の前後で変化しないとの前提で解析した。また、記録した細胞の受動的な応答性を観測し、その細胞が深部感覚情報を受けているのか視覚情報を受けているのかを区別した。その結果、視覚情報を受けている細胞の中に関節角速に関する細胞特性が学習課題の前後で変化するものがあった。さらに、これらの変化は回転変換によるカーソルの動きの変化に対応していることが分かった。本研究により、一次運動野と運動前野背側尾側部には環境に適応して細胞活動特性を可塑的に変化する細胞が存在することが明らかになった。またこのような細胞活動は腕の運動との関連性においてカーソルの動きを予測している可能性がある。 |